本書は、企業が外部コンサルティングを活用するためのガイドブックである。
 具体的に言えば、コンサルティングを利用する目的や意味は何か、コンサルティングにはどのような領域があるのか、また、コンサルタントを見つけ、依頼するにはどうしたらよいか、一般的な手順はどのようなものか、報酬はどの程度なのかについて説明したいと考えている。

 さて、戦略経営とは企業の存在意義と事業ドメインを明確にすることと同時に、経営資源を効果的に調達し、分配し、有効活用することを意味している。経営資源としては以前から、人、物、金、情報の四つが言われてきた。しかし、情報に関しても多くは人に帰属していることを考えると、人が最も重要な資源であるという点に異論を唱える方はいないであろう。
 そのため、新卒、中途を問わず優秀な人材を採用できるかどうかが、企業活動にとってきわめて重大な課題となっている。CI導入によりイメージの向上を図り、社宅の整備を行なうなど、リクルートのために企業は懸命の努力をしている。

 このような努力が必要であることはまちがいない。しかし、社会や市場の変化の速度がますます速まっている現在、内部の人員を充実させることに加えて、外部の人材をもっと活用することも非常に重要な課題になってきている。
 多少長い目で見れば、一部の人的サービス業を除き、人手不足は機械化によって解消される傾向にある。そうなると、肝心な点は単なる”人手”の問題ではない。いまや専門的な知識や技能を持った「人材」をどうするかが問題なのである。つまり、経営資源としての人は量から質へと重点が移行してきていると言えよう。
 本書はこのような時代背景のもとに、外部の人的経営資源であるコンサルタントおよびコンサルティングをどのように活用したらよいかをテーマとしている。

 この数年を振り返ってみると、時代の変化につれ、CI(コーポレートアイデンティティ)やメセナ等の運営に関わる新しい領域のコンサルティングが生まれてきている。製造分野でもいままでのTQCやカンバン方式に加えて、消費者保護や環境問題に対応した製造物責任(PL:プロダクトライアビリティ)や製品安全(PS:プロダクトセイフティ)のコンサルティングが注目されている。
 このように新しい領域のコンサルティングが登場してきている一方、依然としてコンサルティングを利用する場合にいくつかの障害が残っている。
 まず、どのような領域のコンサルティングがあり、コンサルティング利用によりどのようなメリットがあるかが知られていない。コンサルティング領域によっては、ビジネス自体が成立しているとは言えない状況にあるものも多いからである。伝わり方も口コミの域を出ない。また、料金体系に関しても基準となる考え方が明確でない。つまり、コンサルティング能力の売り手と買い手を仲介する市場がまだまだ整備されていないのである。

 このため、経営コンサルティングの内容に関する専門書はいくつかあったが、コンサルティングを活用する側の立場に立ったわかりやすい解説書はほとんどなかった。しかし、この2、3年で様相が変わりつつある。いくつかの一般向けの解説書が出版され、八重洲ブックセンターのビジネス書のフロアーに、コンサルティングのミニコーナーが出現するに至った。
 ただし、これらの解説書も基本的にコンサルティング業務を行なう側の立場で、あるいはコンサルタントになりたい人のために書かれたものである。つまり、コンサルティングの手順から始まり、コンサルタントに必要な知識と能力、注意すべきポイントの解説が内容になっている。もちろん、コンサルティングを活用する側にも参考になることはまちがいないが、コンサルタントの選定方法や、契約時のクライアント側の留意点、社内体制の作り方等の説明が不十分である。本書はこの部分に重点をおいている。

 さて、コンサルティング業務の提供側は、当然自らの専門能力と人間的能力を充実させる必要がある。ただし、コンサルティングの解説書が説明するすべての能力を身につけているコンサルタントはほとんどスーパーマンと言ってよい。期待するほうが無理である。むしろ、受け手の側がコンサルティング活用のノウハウを持つことのほうが賢い方法ではないだろうか。「天は自ら助くるものを助く」のであって、少女が「白馬にまたがった王子様の出現」を待つというような時代錯誤的な態度では、決してよい結果は得られないであろう。
 本書は以上のことを前提にして、戦略経営を行なう企業が、外部資源としてのコンサルティングを活用するための基本的な考え方と手法を提供することを目的としている。

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目  次

第7章
経営資源としての「人材」活用のために・・・・・・