3 本調査

本調査の目的

 予備調査の結果、その領域のコンサルティングが有効であろうという結論に双方が達したら、予備調査を参考にして詳細な調査プランが作られる。

本調査の目的は次の事項である。

  • □ 現状の把握
  • □ 目標の確認
  • □ 問題点の抽出

 本調査はその問題領域に関して、現状を把握し、今後の展望を踏まえて問題点を抽出する。つまり、問題の構造を定義するために必要な情報を獲得することが本調査の目的である。
 さて、ここで必要なのは問題解決手法を正しく適用することであるが、徐々にしてまちがった進め方が行なわれてしまう。それは、「問題解決」という考え方への理解が不十分であることによる。まちがいの多くは目標の確認を怠るか、いい加減に済ましてしまうことに起因する。そもそも「問題」とは現状と目標とのギャップのことであり、両者を比較することによって初めて明らかになる。現状の把握だけから問題は点の抽出ができると考えるべきではない。
 まず、現状の認識も企業内で共有化されていないのが常である。ほとんどの企業で業績や原価構造、社員の能力やモラールなどのデータを収集分析するためのシステムやルールが整備されているとは言えない。結果として、耳触りのよい報告しか受けていない経営者層は特に現状に対する認識が甘い。
 しかし、それ以上に目標に関する全社的コンセンサスが存在することのほうが稀である。大きな目標を持っている人もいれば、現状で満足している人もいる。建前と本音は当然違うし、現実的な判断として、目標は労力とリスク次第と考えている人々もいる。確かに、目標は固定的なものではないが、なんらかの目標が共有化されていなければ活動のベクトルが合わないのは当然である。
 さて、予備調査が大局的に浅く広く行なわれるのに対し、本調査は当該コンサルティングの問題領域に特化して行なわれる。ある意味では、この時期の調査は狭い部分で深く行なわれると考えてよい。もちろん、改善案や推薦案のステップまで進んだら、企業全体システムとの整合性が再び図られる必要があることは言うまでもない。

図

本調査の内容

 本格調査の内容や方法は、コンサルティング領域によって大きく異なる。予備調査がかなり普通性があるのと違う点である。
 しかし、予備調査の内容でも触れたように、「人」からの情報収集、つまりインタビュー調査(ヒアリング調査)が中心になると考えてよい。新しい情報は資料になっていない。人の頭の中にあるものである。また、建前は大量に活字になって存在しているが、本音は隠れているものである。それだけに、コンサルタントの能力として、隠されている本音を引き出すこのインタビューの技術を身につけることはたいへん重要なことである。
 ただし、インタビュー調査を効果的に行なうには、既存資料の読込みや新たな統計データの作成入手が事前になされる必要がある。基本的な知識とある程度の仮説を持つことで、インタビューの有効性は高まる。
 具体的に言えば、調査を行なうための組織作りから始めなければならない。企業内でも大量のアンケート、取材、観察、計測、資料収集と整理分析に関わる作業が発生する。外部に対しては調査会社を利用したマスサーベイが必要になることもある。

本調査の結果報告

 本調査の結果は分析された後、現状、目標、問題点として整理されて報告されなければならない。
 本調査の結果報告はコンサルティングのステップの中でも最も重要な局面である。先に述べたステップの中で、予備調査の結果報告の場合、次の本調査計画の提案は同時に行なわれてもそれほど問題にはならない。しかし、本調査の場合はその後の改善・推薦案の提案を兼ねたものにしてはならないと考える。それは現状認識と目標に関してコンサルタントとクライアントにまだコンセンサスが成立していないからである。
 この点が了解されていないと、プロジェクトはつまずくことになる。コンサルタント側だけの現状認識と想定目標を根拠とした提案は、意味を持たないからである。そもそも、目標はクライアント側の意思決定事項であり、コンサルタントが押し付けるのはおかしい。もちろん、コンサルタントの考えはあって然るべきであるから、意見として述べられるのは当然である。特に目標のレベルに関しては、社会常識的レベルが存在することが多いので、コンサルタントの意見は貴重な目安になる。しかし、主体はあくまでもクライアントであることを忘れてはならない。
 結論から言えば、クライアントにとっては、この結果報告の場は現状認識と目標に関する議論が開始される場であると考える必要があるだろう。コンサルティングの手順に関して、多くの書籍がこの点を考慮していない。もちろん、現状認識と目標に関して議論もなく提案が通ることも少なくないであろう。また、コンサルタント側に自信のある場合もあるだろう。しかし、著者がクライアントであれば、目標設定は自ら関与して決めるであろう。

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第2章
コンサルティングの手順と内容