2 コンサルティングに必要な技術

インタビューの技術

 繰り返し述べているように、人は最新の情報を持つ情報源である。この情報をうまく引き出せるかが情報収集の決め手となる。よくテレビでリポーターやアナウンサーがインタビューしているのを見るが、そのおそまつさに呆れてしまうことが多い。それでもプロかと思うのだが、それだけ難しい技術かも知れないと思い直したりもする。

 コンサルティングにおけるインタビューの目的は、次の3つである。

  • □ 事実を見つける
  • □ 意見を聴く
  • □ よい関係を作る

 以上の3つの目的は分離して考えられない。よい関係を作ることはプロジェクト全体の成功のために必要であるが、それ以前にインタビューを成功させるためにも必要なことである。相手がコンサルタントを信頼してくれなければ、事実を知ることも、ましてや本音を聞き出すこともできない。初対面でこのような信頼を得ることは決して易しいことではない。それ故に知識ではなく、技術が問題になるのである。

 インタビュー時の注意事項には次のものがある。

  • □ インタビューの目的を最初に説明する。
  • □ 相手のプロフィールを頭に入れておく
  • □ 事実に基本事項、用語は理解しておく
  • □ 事実か意見かを確認しながら進める

 最初に、インタビューの目的と内容の扱い方について説明しておく必要がある。上司に生のまま報告されてしまうのでは本当のところは聞き出せない。この部分を十分配慮するつもりであることは最初に確認しておくべきであろう。
 次に、インタビューの導入部では相手の話しやすいことから始めることが重要だ。突然本題に入っても相手はまだ気持ちがほぐれていないから、紋切型の返答になってしまう。本題には話すことに慣れた時点で自然に入っていくようでなければならない。話し易い内容とは、入社前後の就職事情など、本人に関わる客観的な事実である。価値観や知識のレベルを問われるものは話しにくいことと言える。
 インタビューの基本は、相手に自発的に話してもらうことである。質問項目を決めて順番に聴いていくのはあまりうまい方法とは言えない。相手が話す順番というのも重要な情報である。やはり、関心の高いことから話すことが多いからである。一説によると、相手が最も重要だと考えていることは最初の3分間に話されてしまうと言われている。
 また、話されたことが事実なのか意見なのかには気をつけなくてはいけない。中には事実に対する誤認もあるし、虚偽の場合もある。よく、すべて事実のように受け取って分析が行なわれるが、大きなまちがいである。この辺りを俊別する能力がなければインタビューをしても始まらない。いや、それどころか現状把握も分析も、結果的にプロジェクト自体も失敗することになる。
 インタビュー前の準備として、基本的用語や知識を確認しておくことも忘れてはならない。 「そんなことも知らないのか」ではまずいからである。ただ、あまり先走ってはいけないのも事実である。事前にかなり知識を仕入れてからインタビューを行なうと、ついつい「それは知っているから説明はいらない」という態度がでてしまう。これではうまくいかない。
 このように知識レベルをどのようにすべきかも実は難しい。インタビューを重ねるうちに知識も増えていくということもある。最低限、インタビューを始める前に、その業界や市場についてどの程度の知識があるかを相手に伝えておくことは必要であろう。

会議の技術

 コンサルティング業務は一面会議の連鎖である。正式にはオリエンテーション、予備調査に関する打合せから始まって、プロジェクト進行中に膨大な会議が行なわれる。この会議を効率よく運営できるかどうかは重要なことである。
 これはコンサルタントだけの問題ではない。プロジェクトに参加する全員が身につけておきたい技術と言ってよい。時間は「金」であり、「命」であることを忘れてはならない。

 会議において注意しなければならない項目には次のものがある。

  • □ 会議の目的と目標を明確にしてから始める
  • □ 事前の準備をしてから出席する
  • □ 記録を取る(重要な会議は録音、録画を行なう)

 会議の技術に関しては、このテーマの書籍がいくつも刊行されているので多くは述べない。ただ、最も重要なことは会議の目的を全員が共有して行なうことではないかと思う。会議には連絡のためのものもあれば、決定のための会議もある。プレーンストーミングのようにアイディア出しが目的の会議もある。このような目的が明確にされていること、事前の準備がされていることが必要である。そして、その時間内で何をアウトプットするのかが会議の最初で確認されなければならない。

文章の技術

 文章を書くことは易しいことではない。多数の著者を持つプロにしても、すらすらと書いている人は稀である。苦しんで苦しんで書いているのが実態であるという。実際にプロ、アマを問わず自分の文書技術に満足しているという人はほとんどいないのではないだろうか。その証拠に文章論の類は毎年、10冊以上は確実に出版されているし、永遠のテーマと言ってよいだろう。
 さて、文章を書くことが難しい理由は、その前提に論理力が要求されるからである。何か伝えるべき事象があったとしても、それに対して論理的思考がなされていなければ、文章は書けない。言い換えれば、文章の技術、つまり文章力と論理力は表裏の関係にあると考えられる。
 コンサルティングの各局面においても同様である。正しい論理構築がなされていなければ文章にすることができない。逆に言えば、文章にすることができなければ論理的な矛盾や不備があると考えなければならない。頭の中で、いや気持ちの上で分かったような気になっても、いざ文章にしてみようとするとうまくいかないといったことは少なくない。こんな時は厳密には論理構築が完成されていないと考えるべきであろう。

 文章に関して注意しておきたいポイントには次のものがある。

  • □ 簡潔に書く  ・複文、重文は避ける
  • ・箇条書きを活用する
  • □ 明確に書く  ・情緒的な表現(形容詞など)を減らす
  • ・平易な仮名づかいをする
  • □ 的確に書く  ・相手のレベルに合わせて書く
  • ・多義的な言葉は避ける
  • ・タイトルなどに印象的な言葉を使う

 第3章で説明したが、コンサルティングにおいては普段の業務以上に文書主義を採用すべきである。コンサルティングを必要とするプロジェクトは企業にとって初めてのことであったり、稀にしか行なわれないことであるから、記録に残すことは理解の確認のためにきわめて重要なことになる。この文書作成のために必要であり、中心的な技術が文章の技術である。コンサルタントの能力としても基本的な能力と言えるだろう。
 文章の技術に関連して述べておきたいことがある。ネーミングの技術に関してである。これは論理的な文章能力というより、言葉に関する感性的な能力というべきものである。プロジェクトのいくつかの局面で、ネーミングが重要な要素として登場する。そもそもプロジェクト自体の名称をどのようにつけるかで、プロジェクトに対するイメージは大きく変わる。どちらがいいというわけではないが、たとえば、「業務改善計画」と「ステップアップ’95」とを比較すると、前者がまじめな上からのプロジェクトであり、後者は下からの参加型のプロジェクトであるという印象になる。
 これ以上に、改善・推薦案の提案内容に関しても、「トレンド創造型企業を目指す」のような、目標を端的に表現する言葉を使用する効果は決して小さくない。このようなシンボリックな言葉を作ったり、見つけたりする能力はいわばコピーライター的能力である。ある程度才能の問題とも言えるが、少なくともこの効果を理解していることは必要であろう。

図解の技術

 文章の技術とともに、文書作成やプレゼンテーションにおいて重要な技術は図解の技術である。文章が主に論理的な理解のためのコミュニケーション技術であるとすると、図解はより直感的なイメージやパターン認識によるコミュニケーション技術である。

 一般的にはコミュニケーション上の図解は次のような分類ができる。

  • □ グラフ (円グラフ、帯グラフ、棒グラフ、レーダーチャートなど)
  • □ 流れ図 (手順図、システムフローチャート、アローダイヤグラムなど)
  • □ 概念図 (組織図、関係図、システム構造図など)

 グラフは主に調査結果などの数値データを分かり易くしたり、意味づけたりするために利用する。折れ線グラフ、棒グラフ、円グラフ、レーダーチャート、SDチャートなどがなじみのものである。コンサルタントの能力は目的に応じてどのタイプのグラフがよいのかを判断できることにある。
 流れ図はともかくとして、コンサルティングにおいて図解の技術が最も要求されるのは3番目の概念図(コンセプチャルチャート)である。
 この概念図を作る技術は、問題の構造化を行なう時になくてはならない技術である。先ほど文章化には論理構造の完成が前提となると述べたが、複雑な構造の場合、正しく文章化が行なわれていたとしても、読む側にとって正しく理解することは容易なことではない。特に、因果関係が重層的に複雑に絡まっている場合は文章で表現したのではかえって分からなくなることもあるだろう。
 文章の場合はどうしても一方向の線的な構造でしか表現できない。次元としては一次元ということになる。それに対し、図解の場合は二次元、擬似的には三次元での表現ができるのである。
 改善提案の場合を考えても、概念図があれば既存のシステムの構造と改善後のシステムの構造を見比べて検討できる。このような場合は文章や話だけでは全く不可能と言ってよいだろう。
 残念なことに、はじめに触れたグラフや流れ図に関してはかなりの基準化やルール化が行なわれているにもかかわらず、概念図に関しては一般的なルールや原則が作られていないのが現状である。試行錯誤を繰り返しながら、身につけなければならない技術のようである。

プレゼンテーションの技術

 プレゼンテーションでは、コミュニケーションの技術が総合的に発揮されなければならない。その中心は話す技術であることはまちがいないが、これだけでは済まない。先に説明した文章作成技術と図解の技術がそれに加わる。もちろん、これらすべての前提には一連の問題解決の技術がある。
 コンサルティングでは、プロジェクトの進行過程で幾度かこのプレゼンテーションが行なわれる。予備調査報告、本格調査の報告、改善・推薦案の提案などがプレゼンテーションの機会であり、それぞれ大事な節目であることが分かる。膨大な作業の成果が集約されて短い時間の間に評価される場面がプレゼンテーションなのである。
 プレゼンテーションという言葉は日本では広告業界で使われ始めたようである。つまり、広告代理店が広告主に対して、広告計画、販売促進計画、特にそれのクリエイティブ表現を提案することがプレゼンテーションと呼ばれるものであった。しかし、最近では一般の企業においてもプレゼンテーションという言葉が頻繁に使われるようになってきている。対外部との関係で使われるだけでなく、社内の部門間や部下が上司に対して提案する場合でもプレゼンテーションと呼ばれることは珍しいことではなくなった。
 さて、コンサルタントの活動の中に、講演会やセミナーといったプレゼンテーションと同様、「話す」というコミュニケーション技術を中心にした活動がある。では、どこが違うのであろうか。プレゼンテーションを講演会やセミナーと比較しながら定義してみよう。

  • □ 比較的少人数の
  • □ クライアントを対象にして
  • □ 視覚的資料を使用し
  • □ 説得を目的に行なわれる

 講演会やセミナーでも少人数の聴衆であることもあるにはあるが、100人、200人を対象にしたプレゼンテーションはあり得ないだろう。
 また、プレゼンテーションの場合、聴衆はクライアントつまり特定の意図を持ってコンサルタントとコンサルティング関係を結んでいる関係にある。これは不特定多数を対象にすることが多い講演会とは大きく違う点である。
 視覚的資料、つまりOHPやスライド、あるいはVTRといった素材を使用して説明を行なうこともプレゼンテーションの条件となる。講演会の場合、視覚資料を使ってはいけないということはないが、全く使わないことも可能である。
 最後に、プレゼンテーションは受け手であるクライアントに何らかの意思決定をしてもらうことを目的として行なわれる。予備調査であれば本格調査へと進むことを決定してもらうのが目的であるし、本格調査の報告は目標や問題点に関するコンセンサスを作ることを目的としている。講演会は、聴衆に新しい知識を与えることができれば文句は言われない。その後、聴衆にすぐに特定の行動を起こさせることを意図したものは稀であろう。
 以上のように、コンサルティングにおけるプレゼンテーションは非常に重要な役割を持っている。プレゼンテーションの成否がプロジェクトの行方に大きな影響を与えると言っても過言ではない。ある意味ではプレゼンテーション技術がコンサルタントの真骨頂であるとも言える。

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第6章
コンサルティングに必要な知識と能力