第3章は本書の中心となる章である。コンサルタントの選定から始まり、活用上のチェックポイントまでを取り上げる。
 この章では、企業内で次代を担う部長あるいは課長がコンサルティング導入を意図した場合を想定して、選択から実際のコンサルティングの現場での活用ノウハウを考えてみたい。
 第1章で述べたように、コンサルティングの役割はあくまでナビゲータである。コンサルティングを必要とするプロジェクトの場合でも主体はあくまでもクライアントであり、キーマンは推進担当者である。プロジェクトの成否はコンサルタントの能力以上に推進担当者の力が決め手になる。
 さて、一般的にコンサルタントあるいはコンサルティング会社をどのようにして知るのであろうか。いくつかの調査によると経営者の個人的交遊関係の中で紹介を受けるといったケースが少なくないという。紹介するほうも無責任に紹介することはないし、おおむね優秀なコンサルタントの紹介であることが多いことであろう。しかし、その企業が必要とする問題領域のコンサルタントとは限らない。この章ではある程度明確な問題意識を前提として、コンサルタント探しを始める場合を想定して論を進めたい。


1 コンサルタントの選定

コンサルティングを行なう主体

 さて、詳しくは第5章のコンサルティングの領域の章で考えてみたいが、コンサルタントの選定に関連する範囲で、コンサルティングを行なう主体の分類を見てみよう。

 経営コンサルティングおよび、技術コンサルティングを行なう団体は次のように分類できる。

  • □ 外資系ゼネラルコンサルティング会社
  • □ 外資系会計事務所
  • □ 日本系コンサルティング会社
  • □ 日本系会計事務所
  • □ 総合研究所

 外資系のゼネラルコンサルティング会社は、経営戦略に関するコンサルティングが中心になる。マッキンゼーやブース・アレン・アンド・ハミルトン、ボストンコンサルティンググループなどが代表的で知名度も高く、主に大企業の事業領域や全体組織に関する総合的な経営戦略の開発を業務としている。
 二番目の外資系の会計事務所は近年ビッグ8が再編成され、ビッグ6になったが、世界的に見れば実は最大の経営コンサルティング業務の提供者である。アーサーアンダーセンやプライスウォーターハウスなどがこのカテゴリーに入る。会計事務所が行なうコンサルティング業務はMAS(マネジメントアドバイザリーサービス)と呼ばれ、標準化が進んでいる。
 三番目の、日本系の経営コンサルティング会社は日本能率協会コンサルティングやジェムコ日本経営のような総合病院的コンサルティング会社から、個人事務所まで含まれる。技術分野では日本工営のような技術コンサルティング会社もある。中小企業診断士、経営士、経営管理士、技術士などが中心的担い手であるが、これらの資格とは関係なしに、企業の経営者やスタッフ部門の人が独立して事務所を構える場合も少なくない。また、官庁や公的機関で審議的なキャリアを積んできた人もいる。
 それにしても、この「中小企業診断士」という名称はおかしい。通産省中小企業庁の管轄とは言え、なぜ中小を取った「企業診断士」ではいけなかったのか疑問である。彼らの業務は何も大企業では通用しないというわけではないのである。
 公認会計士は、税務や会計監査を通じて企業と長期的な信頼関係を築いていることもあり、経営コンサルティング業務の提供を行なうには有利な立場にある。外資系の会計事務所のMAS業務を参考にし、業務の標準化も行なわれている。
 現在、第三次の総合研究所設立ブームであるという。特に大手の金融機関は争うように総合研究所を作っている。製造業や広告代理店も総合研究所を持ち、以前のシンクタンクというイメージからは、ほど遠くなってきている。一概には言えないが、総合研究所はSI(システムインテグレータ)としてシステムコンサルティングの領域をカバーしつつあると考えられる。

そのテーマの著者を見つける

 さて、いま見たように、外資系ゼネラルコンサルタントが行なう経営戦略コンサルティングや、日本能率協会コンサルティングがカバーするコンサルティングに関しては、どのように依頼すればよいかはある程度道筋が分かっている。総合的な経営診断や経営戦略の策定の場合は、第5章で説明する協会的団体や主要なコンサルティング会社に相談するのがよいだろう。
 しかし、もっと特化した領域のコンサルティング、例えばテレマーケティングや製品安全マネジメントなどを必要としている場合はどうであろうか。
 まず、そのテーマの書籍を見つけることから始めるのがよいだろう。
 さて、書籍、雑誌、新聞などは同じ印刷メディアであるが、質的な違いがある。新聞は速報性が身上である。とにかく早く正しく伝えることに意義がある。それに対して書籍の場合は、速報性は望めない。むしろ、書籍は体系だった知識を提供するところに存在価値がある。雑誌はその中間に位置する。
 第1章で素人療法は危険であると述べたが、何も分からずコンサルティングに任せるというわけにはいかない。ある程度はその問題領域について知識を仕入れた後に相談をすべきである。その知識を得るための手段として最も実際的、つまり体系的で経済的なものが書籍である。
 書籍を見つける意味は、クライアントが問題を理解することばかりが目的ではない。もう一つの目的は、コンサルタントを見つけるためでもある。第2章で説明したような体系的な手順を踏めるコンサルタントは多くの場合、本を書いている。
 知識やノウハウの量が一冊の本にならないようではその専門性もたかが知れている。自社内で試行錯誤を繰り返しながら進めても大差がないに違いない。
 さて、ビジネス書の著書のバックグランドにもいくつかのタイプがある。

  • □ 実務家      □ ジャーナリスト     □ 学者/翻訳家

 同じテーマに関しても、実務家の著作もあれば、ジャーナリストの取材による著作もある。またいままでの多くの例のように海外で先行して発展した技術や手法の場合は、著者が翻訳家もしくは語学力の高い人で、翻訳を通してその領域の専門家になった人である。
 もうお分かりと思うが、実際にコンサルティングができるのは一番目の実務家である。実務家の場合、著書は流暢に面白く書かれていないことも多いが、実体験に基づいたコンサルティング実務には期待が持てる。ジャーナリストや学者の場合、実際のコンサルティングは期待できない。ある程度の助言は可能であろうが、実施の指導までは依頼すべきではないだろう。
 ただし、当該テーマを理解するためには、著者のタイプにこだわらず複数冊は読む必要がある。問題の構造や周辺の知識が獲得できるからである。この場合は、時にはジャーナリストや学者のほうが頼りになることもある。また、いくつかの本を読み比べることにより理解は格段に深まる。
 ここで注意しておきたい点がある。書籍を見つけるためにはデータベースを使わないといけないという点である。ビジネス書は個々の発行部数がそれほど多くないため、どの書店にもあるとは限らない。筆者は1991年の7月に八重洲ブックセンターで実験を行なったことがある。それまでの一年半で出版された「外食産業に関する書籍」をデータベースで検索し、八重洲ブックセンターにどの程度置いてあるか確かめたのである。その結果は20冊のうち、確認できたものはわずか3冊であった。このように少しでも専門的な分野に踏み込んだ場合、書店の棚は頼りにならないのである。
 人物データベースで直接専門家を見つけるという方法もあるが、自分でもそのテーマを理解することも重要であるから、まず、書籍データベースを使うことを勧めたい。
 国内の書籍データベースは、国会図書館の「JAPAN MARC」、日本出版販売の「NOCS」、トーハンの「TONET」、日外アソシエーツの「ASSIST―BOOK」がある。この中では「ASSIST―BOOK」がタイトルや著者名ばかりでなく、キーワードでも検索できるので、これの使用を勧めたい。
 総合データベースサービス「ジー・サーチ」をはじめ、「ニフティサーブ」や「PC―VAN」などのパソコン通信でも利用が可能である。

講演会、セミナーに参加する

 ある程度、そのテーマに関する知識を仕入れ、然るべき人を見つけたら、次にやるべきことは後援会やセミナーに参加してみることである。

 講演会、セミナーに参加することの目的と効果は下記のものが考えられる。

  • □ 最新情報、生情報を入手する
  • □ コンサルタントの実力を判断する
  • □ 他社の関心や動向を知る

 実際に話を聴いてみると問題の構造がよりはっきりする。また、書籍で書かれたことはやはり過去のことであり、ライブの講演会セミナーでは最新の情報に接することができる。時には活字にはできない本音の部分が分かることもある。
 この講演会やセミナーを聴くことによって、コンサルタントの実力も判断できる。まず、問題の構造を明確に分かりやすく説明できるかがチェックポイントになる。次に、コンサルティングを行なうための十分な経験があるかに注意すべきであろう。これは講演中にも分かるが、特に質疑応答の時に本当の実力が分かる。質疑応答は出たとこ勝負であり、ごまかしが効かない。具体例をあげて説明できるかどうかはケーススタディの量によるからである。
 また、聴衆の聴く態度と質疑から、いろいろなことが分かる。セミナーの性格にもよるので絶対的な基準ではないが、メモを取って真剣に聴いているようであれば、講師の実力は高いと判断できる。逆に、ぼんやりと聞いているようだと、変わりばえのしない内容である可能性が高い。
 質問の内容は、他社の関心がどの辺りにあるかも教えてくれる。出席者のプロフィールが配られていれば、関心のある部門がどこかも分かる。
 講演会、セミナーに関して言えば、普段から新しいテーマの講演会やセミナーが開催された時、参加するように心がけておくべきであろう。特にいくつかのセミナー主催団体で同じテーマのセミナーが行なわれるようならばそれはトレンドの証拠である。また、同じ主催団体で3年以上続いているテーマは定着した問題領域であることを物語っている。
 このように講演会やセミナーは講師の話の内容だけでなく、以上で説明したような周辺情報を確認することにより、プロジェクト構築のための大きな手がかりが得られるのである。

社内セミナーの開催

 外部セミナーに参加して、目星をつけたら一度面談して今後の付合い方の感触をつかむ必要がある。現在、競合他社とコンサルティング関係を持っている場合、コンサルティングを引き受けてもらえる可能性は低い。後で契約の問題に関連して、コンサルタントの守秘義務にも触れるが、かなり深いコンサルティング関係を特定の業種のクライアントと結んでいる場合、直接競合の他社と同時にコンサルティング契約を結ぶことには倫理的問題がある。定番の要員教育指導のような部分的なコンサルティング業務をしているような場合を除いて、しばらくは諦めたほうがよいだろう。
 コンサルタントの倫理に関しては第6章で詳しく説明するが、「競合関係にある複数の企業と同時に契約を結ばない」こと以外にも、「能力を超える仕事は引き受けない」、「成功報酬を請求しない」、「違法行為を幇助するような助言はしない」、「インサイダー取引に荷担しない」といったものがある。
 面談をしてみて、コンサルティングの効果やコンサルタントの能力がある程度確認できたら、次にすべきことは社内セミナーの開催である。
 社内セミナーの目的や狙いには次のことがある。

  • □ 社内の問題意識の醸成
  • □ コンサルタントの能力の見極め
  • □ コンサルティング受容の雰囲気作り

 コンサルティング導入を意図している人が社内でどのようなポジションにあるかにもよるが、社内の問題意識を醸成するためにも社内講演会、セミナーを開催することを勧めたい。どのような問題が存在するのか。対岸の火事ではないこと、対策の必要性があることなどを気づかせなければならない。
 この社内セミナーは、コンサルティング契約と切り離して開催することが可能である。セミナーを聴いて、社内にそのテーマの内容とプロジェクトの必要性に対する理解が生まれれば仕事はやり易くなる。そのためには講師の実力と人柄が重要なポイントになる。
 担当者は社内セミナーの結果で、そのコンサルタントに依頼するかどうかを決めることになる。社内の意見、そのテーマをどう考えるか、講師をどのように評価するかなどを聴取する。
 基本的に、ほとんどの企業の活動はコンサルティングなしで行なわれている。多少の試行錯誤はあっても企業内の人員でできないというわけではない。外部の人間に重要案件を依頼することには心理的抵抗があるのは当然である。第1章で述べたコンサルティングの役割、つまり場合によっては外部の専門家を利用したほうが経済的であり、確実であるということを理解してもらうことはきわめて重要である。
 そのためにはセミナー後、「さすがだ」「大変なもんだ」といった講師に対する評価が社内の大勢になっている必要がある。言わば、コンサルティング導入に関するコンセンサス作りであり、環境作りである。
 また、特定の個人の味方でないことを知らしめることが重要である。そのためには、「自分の知らない人が、自分の知らないところでコンサルタントとして選定された」と受け取られるような状況を作ることはまずい。たとえ、他の部門や上司に諮らないで導入を決定できる立場であっても、社内の雰囲気作りを軽視すべきではないであろう。
 社内セミナーの参加者の範囲はケースバイケースである。経営トップ数人でよい場合もあるだろう。このような時は、セミナーというより懇談会のような形式でもよいかも知れない。一般的には、常務会や取締役会メンバーを範囲に考える。時には、部長職以上も参加というケースもある。ただし、これはそのプロジェクトが始まって、より具体的な見通しがたってからでもよいだろう。

既存のクライアントに確かめる

 コンサルティングは基本的に受注ビジネスである。OA機器の販売のように営業マンが顧客を訪れて、自社製品が他社と比較してどれほど優れていて、コストパフォーマンスがよいかを説明するようなことはない。そのため、コンサルタントの選定には客観的決め手はないといってよいだろう。
 コンサルタントの実力を計りかねたり、複数の候補が残った場合、コンサルタントが持つ既存のクライアントから取材する方法がある。客観的な評価とは言えないが、きわめて実証的な方法である。
 また、プロジェクトによっては、コンサルタントが関与しないか関与しにくい社内的予算措置や組織的対応に関する事項がある。先行してプロジェクトを進行している他企業からの取材は、得るところが大きい。成功しているコンサルタントは、既存のクライアントと良好な関係にあることが多い。窓口担当者は、コンサルタントに既存クライアントの紹介を求めてみるべきであろう。
 第6章のコンサルタントの能力の章で詳しく述べるが、コンサルタントの評価は、専門性と人柄の二面がある。既存のクライアントにいくら評判がよくても、人柄だけで持っているコンサルタントも少なくない。この辺りの判断は一概には下せない。

図

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目  次

第3章
コンサルタントの選定と活用のポイント