4 提案と実施

改善・推薦案の開発と提案

 本調査の結果報告が終わり、現状認識、目標設定、問題点に関するコンセンサスが出来た時点で改善・推薦案の開発作業が始まる。
 コンサルティングにおける提案とは、いわゆる企画提案とは異なる。経験に裏打ちされたより現実的な提案である。あるいは新規性や斬新性がないものかも知れない。だからといって価値の低いものと考えるのはまちがっている。コンサルティング業務が約束すべきものは「確実な成果」であり、「斬新な失敗」ではないからである。
 コンサルタントの創造性とは、取るべきアクションの優先順位や組合せ設定で発揮される。解決すべき問題は複数あるし、その原因も一つではない。そして解決のための方策もいくつもあるものである。これらの解決策の効果は状況により一長一短がある。おそらく、取るべく解決策として何があるかについては書籍から知ることも可能であろう。しかし、その取捨選択や組合せと順序については豊富な経験と専門知識が必要となる。
 クライアント側の目標設定が、理想を求め過ぎていて現実的でない場合がある。コンサルティングの機能とは、この点の判断を行なうことでもある。目標設定がクライアントの専権事項であるといっても、目標が高過ぎてそこに至る手段が現実的でないとしたら、コンサルタントには自信のない旨を明言する態度が必要とされる。安請合いすることに比べて責任ある態度であると考える。
 さて、現実的な提案であるためには、裏を取らなければならない。多くの人に会って話を聴く必要がある。実施のために、関係者から見積を取って予算的な裏付けも取る必要がある。正確でないにしてもいくらかかるか見当すらつかないのでは話にならない。
 クライアントは調査報告と改善・推薦案の提案の間には膨大な作業が必要であり、時間も労力もかかることを知らなければならない。裏付けのない机上の空論はいくらでも簡単にできる。いままでのコンサルティングと呼ばれるものにはこのような理想論の提案で終わることが少なくなかったし、クライアント側もこの時点でコンサルティング契約を終了させてしまうことも多かった。コンサルタントにしてみれば、人事権や予算執行権を持つものではないので、本当に実効性のある提案が難しいのも事実である。この辺りを突破するのは優秀なコンサルタントと、それを十分に使いこなせるクライアント側のプロジェクト担当者の存在が不可欠なのである。
 第6章、「コンサルティングに必要な知識と能力」で詳しく述べるが、コンサルティングの役割の中でも特にその専門性が要求されるのが関係法規の問題である。特に最近は国内法規制の知識だけでは十分とは言えない。経済や社会がますます国際的になりつつあるので、海外の関連法規に通じていなければ効果的なコンサルティングはできない。また、場合によっては業界規制などにも関わってくる。このような業界規制などの特殊な事情について、コンサルタントも知らないことが多い。コンサルタントとクライアントの両者で、十分検討する必要があるだろう。
 なお、先ほど、問題認識と目標に関するコンサルタントとクライアントのコンセンサスの必要性から、本調査結果報告と改善・推薦案の提案を同時に行なうべきではないと述べた。しかし、たとえばということで方策のいくつかを披露することは必要かも知れない。ミスリーディングにならないかぎりにおいてクライアントはアイディア提示を求めてもよいだろう。

実施指導

 先ほど改善・推薦案の開発が机上の空論であってはならないと述べたが、提案の実施がうまくいかないと今度は絵に描いた餅ということになる。
 映画作りに例えて考えてみよう。映画の場合、原作からシナリオを経てキャスティング、そして実際の撮影という手順になる。撮影のためには大道具のセットや小道具、俳優の着る衣装も準備しなければならない。もちろん、原作やシナリオの出来のよさは重要な要素ではあるが、最終的なアウトプットである俳優やセットのほうがごまかしが効かないことは明らかである。また、監督やカメラマン、証明といったスタッフの能力やチームワークも重要な要素である。
 コンサルティングにおける改善・推薦案の提案は、映画で言えば実際の撮影の手前までといったところである。提案実施の段階では、映画の撮影の段階のように違う局面を迎える。特に、新しいシステム構築を伴うプロジェクトの場合は、実際に作業をするための組織作りはきわめて困難なことである。調査時の組織作りとは比べものにならない。
 また、基本的に「新しいシステムは最初からうまく動くことはない」という認識を持つべきである。というのは、予期せぬ障害に遭遇するものだからだ。この段階でコンサルティングに期待されるのはこのような実施時の現実的なトラブルへの対処方法である。
 スケジュールに関しても、コンサルティングを受けないと現実的なものはできない。もちろん、クライアント側の都合や投入できる資源によるので、コンサルタントの思い通りにはいかず、調整が必要となる。
 また、システム構築時とその後の運営では必要とされる人的資源の量や質が異なる。
 量はともかくとして、質の問題はきわめて重要なポイントである。開発する能力と運営する能力は違う。そのため実際の運営のための要員の教育も必要になるし、マニュアル作りも重大な作業であることを忘れてはならない。ややもすると、この部分の重要性を失念しがちであるが、画龍点睛を欠くことになる。本来の目的を忘れていると言わざるを得ない。
 新システムの導入時の方法として、状況が許されるならばテスト導入方式を勧めたい。
 予期せぬ障害が発生した場合も被害を小さくすることができる。たとえば、モデル工場などを設定して、新しい製品安全チェックシステムを導入するといったことが考えられる。そうすればモデル工場の運用結果を反省して全社的に広げることができる。ともかく新しいシステムの導入時には慎重な対処が必要である。

効果測定

 新しいシステムは企画、設計、導入が済めば気を抜いてしまいがちであるが、実は定着させることのほうが重要である。このことを忘れてはならない。また、導入後も部分的な改善や変更は続ける必要があるだろう。
 そのため、本調査の結果報告、改善・推薦案の提案を通じてなされた目標が達成されたかどうか確認する必要がある。理想をいえば、提案の一部として効果測定の方法が盛り込まれているべきである。
 システムの改善の場合と新システムの構築の場合では効果測定方法が異なる。前者は旧システムの実績記録が残っている場合、効果測定はそれほど難しくない。後者は目標値との対比や費用対効果が評価の考え方になるだろう。少し工夫が必要かも知れない。
 たとえば、本調査でやった調査を、事後に一定の期間ごとに行なうことも考えられる。CI開発時の企業イメージ調査なども、CI導入前ばかりでなく、直後、1年後、2年後というように時系列で比較して初めて意味がある。残念ながら、単純な学生の人気ランキングをウォッチングしているだけの場合が多い。

 目次をクリックして続きをお読みください。

▲

目  次

第2章
コンサルティングの手順と内容