コンサルティングは、いろいろな点で医療と類比させて見ることができるのは既述の通りである。分類についても医療との関係で考えてみたい。
 さて、医療の世界では、西洋医学に基づくものから漢方や鍼灸、最近では真偽はともかく心霊治療までの広がりがある。同じ症状の疾患に対する基本的な考え方も、対処の仕方も異なっている。西洋医学にしてもひとくくりにはできない。内科、外科、物療など分化しているし、最近ではそれぞれの専門化がますます進んでいる。コンサルティングの場合も医療と同様のことが言えるのであるが、より全体像が分かりにくいようである。
 いままで、マッキンゼーやボストンコンサルティンググループのような外資系コンサルティング会社は経営戦略の見直しや構築といった視点から、また中小企業診断士は企業診断として、公認会計士はMAS(マネジメントアドバイザリーサービス)として、あるいはSA(システムアナリスト)やSE(システムエンジニア)はシステムコンサルティングとして、各々個別に自らのコンサルティング領域を説明していた。百家争鳴とは言わないまでも、利用する立場に立ってみれば何がどのように違うのか分からないのが現実である。
 本書では、コンサルティングに関するいろいろな分類軸を設定し、コンサルティングの全体像を明らかにしていきたい考えている。


1 コンサルタントの資格制度

百科事典による分類

 第1章で、広辞苑が「コンサルタント」をどのように定義しているかを確認したが、領域などの分類については明らかではなかった。百科事典ではどのような分類をしているのであろうか。

コンサルタント
相談に応ずる者ないしは顧問という意味であるが、一般的には経営に関する顧問・診断・指導を業とする者をいう。コンサルタントは大別して経営コンサルタント(経営士)と技術コンサルタント(技術士)に分かれる。前者は経営全般または諸部門の管理につき、後者は各部門の技術につき指導・援助する。

世界大百科事典 11 (平凡社刊、1972年初版、1980年印刷)

 「コンサルタント」の項目としてはこれだけの記述であるが、「経営士」と「技術士」については別に独立した項目として扱われている。両者とも「コンサルタント」の場合の三倍近くの記述がある。
 要するに、一般的にはせいぜいこのように、「経営コンサルタント(経営士)」と「技術コンサルタント(技術士)」という二つの分類があること程度の理解であると思われる。
 しかし、実際の社会においてはこのような単純な二分類では役に立たない。また、ここで一般名詞のように扱われている「経営士」も「技術士」も現実の制度という視点から見ると一般論では問題がある。「経営士」は経営コンサルティングの分野の「資格称号」の一つであり、「技術士」もやはり技術コンサルティング分野の「資格称号」の一つでもある。
 この章はコンサルティング領域やテーマの分類を明らかにするためのものであるが、まず、現実に存在している資格制度から見てみることにしよう。

経営コンサルタントの資格制度

 先ほどの百科事典の記述が誤解を生むもとになっているのであるが、経営コンサルタントと「経営士」はイコールではない。むしろ、一般的には「中小企業診断士」のほうがよく知られた制度ではないだろうか。
 ここでは経営コンサルティングに関するいくつかの主要な資格制度を説明する。

(1)経営士制度
 経営士は一般名詞のような印象を与えるが、実は社団法人日本経営士会が管理する称号である。
 1951年に任意団体としてスタートした経営士会は、1955年に通産省と経済企画庁の勧奨により社団法人となっている。日本のマネジメントコンサルティングの歴史から見ると、最も早い時期に生まれた資格制度である。1991年には創立40周年を迎えて、多くの記念事業を行なった。日本経営士会では経営士および経営士補の試験を実施して、合格者に資格認定を行なっている。現在までに約3,500名の登録会員を持っている。
 全国に九つの支部(北海道、東北、北関東、東京、南関東、中部、近畿、中四国、九州)がある。

(2)中小企業診断士制度
 この制度は1948年の中小企業庁の設置と同時に萌芽的に始まった。その後、1963年に「中小企業指導法」という法律が制定され、これに基づいて現在の登録制度が始まっている。
 1986年に情報部門が加わり、工鉱業部門、商業部門の三部門制になった。1992年の段階で各部門の登録者は、工鉱業部門は約4,200、商業部門は約7,500、情報部門は約400で全体で約12,000になっている。

(3)経営コンサルタント制度(日本生産性本部所管)
 経営コンサルタントという言葉は経営士以上に一般名詞として認知されているが、実は財団法人日本生産性本部が管理する称号でもある。
 第6章の「コンサルティングに必要な知識と能力」で詳しく触れるが、日本生産性本部の「経営コンサルタント養成講座」は、日本で唯一の本格的な全日制のコンサルタント養成コースと言われている。
 日本生産性本部は1955年に米国政府の協力と通産省の決定により、官民協力を前提に、経営者・労働者・学識経験者の三者中立構成の財団法人として設立された。「雇用の増大」「労使協調・協議」「成果の公正配分」という生産性三原則を掲げ、日本の生産性向上運動の指導的役割を担ってきた。
 「経営コンサルタント養成講座」は1958年に創設され、講座修了者は2,000名を超えている。

技術コンサルタントの資格制度

 技術コンサルティングはどのようなものであろうか。まず、百科事典の記述を確認してみよう。

コンサルティング=エンジニア【consulting engineer】
産業界に対して、科学・技術の応用に関し適切な指導を行なう自由技術者。現代のように科学・技術が細分化され、高度に分業化すると、科学・技術を産業に応用するためには広範囲にわたって高度な知識が要求される。このような要望に応えるために、豊富な経験と最新の知識を身につけ、産業界の要請により指導的な役割を果たす自由技術者、すなわちコンサルティング=エンジニアが近年クローズアップされた。日本ではこの技術士制度が1957年に施行された。

大日本百科事典 ジャポニカ 7 (小学館、1974年、2版11刷)

(1)技術士制度
  この記述にあるように日本では1957年に「技術士法」が施行され、技術士制度がスタートしている。  社団法人日本技術士会が発行している、「技術士制度、国家試験・資格への案内」をもとに、技術士制度の要点をまとめてみると次のようになる。

  • □ 「技術士制度」は「技術士法」に基づいている
  • □ 国家試験(技術士第二次試験)に合格し、登録した人にだけ与えられる称号である
  • □ 科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある資格である
  • □ 18の技術部門に分かれている(下記参照)
  • □ 25,000人強が登録されている(合格者累計は約3万人)
  • □ 約15パーセントが個人コンサルタント、約40パーセントがコンサルティング会社に
      所属
  • □ 部門ごとの登録者数には大きなバラツキがある
  • 部門の分類
  •  機械/船舶/航空・宇宙/電気・電子/化学/繊維/金属/
  •  資源工学/建設/水道/衛生工学/農業/林業/水産/経
  •  営工学/情報処理/応用理学/生物工学

 技術士制度に関してこれ以上詳しくは述べないが、コンサルティング領域との関係で18の技術部門と試験科目が参考になるので次に示す。

図


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(2)その他の資格制度
 技術士制度は科学技術庁の所管であるが、通産省や建設省、あるいは労働省が所管する資格制度がある。多くはエネルギー管理士や一級電気工事施工管理技士など、「管理士」、「管理技士」と呼ばれる資格であるが、なかには建設コンサルタントや労働安全コンサルタントのように、まさにコンサルタント資格であることが明らかなものもある。

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目  次

第5章
コンサルティングにはどのような領域があるか