4 コンサルティングの広がり

確立された領域とフロンティア

 理論的に言えば、企業が行なうすべての活動に関してコンサルティングが成立する。しかし、ビジネスとしてコンサルティングが成立している分野とそうでない分野がある。
 歴史的に見てすでに基本的概念や有効な手法が確立されているコンサルティング領域と、まだまだ試行錯誤の段階にあるコンサルティング領域がある。医療の世界でも同様のことであろう。
 今後成立する可能性があるが、まだ成立していない領域とは次のような条件か、これらの条件が複合した領域である。

  • □ 新しい技術に関連した領域
  • □ マーケットが小さな領域
  • □ 必要性に関する社会的認識が不十分な領域
  • □ 法的基準や強制がない領域
  • □ 比較的容易に専門知識が獲得できる領域

 どのコンサルティングが前記の条件にあたるのか例をあげることは難しい。成立しているかどうかにどのように線を引くかがはっきりしないし、本書を書いている間にも事態は刻々と変化していくからである。
 あえて、例をあげれば、データベース利用に関するコンサルティングがある。1992年の時点で、外部データベース利用に関するコンサルティングは日本では成立していない。この場合、新しい領域であると同時に、それほど専門知識を必要としていないと見られているきらいがある。
 産業廃棄物処理に関するコンサルティングでは、社会的認識が不十分であることと法的な基準が未整備であるという理由もあるだろう。
 逆に言えば、前記の条件が変化すると新しい領域のコンサルティングが成立する可能性が高まるということである。

一部機能に特化したコンサルティング

 部門別のコンサルティングの場合、事業的にはコンサルティングの手順の中でも要員の教育の部分が大きなボリュームになる。そのため、これに特化したコンサルティングもある。
 人事・労務関係のコンサルティングは制度の見直しや新制度の導入に関わるプロジェクトである場合もあるが、多くは新入社員教育や管理者教育のプログラム立案や運営がビジネスとしての大部分を占める。
 また、情報化社会の進展に伴い、情報提供サービスのコンサルティング化が進展している。情報の重要性に関する認識が高まる一方で、膨大な情報の氾濫が起きている。そのような情報洪水の中から、的確な情報を選び出すことは容易なことではなくなっている。以前の単純な検索代行サービスではなく、より専門度と経験の必要な、情報コンサルティングとも言うべき機能が登場してきている。
 この情報コンサルタントは問題解決にどの程度関わるかという点で、いままでの情報提供サービスと異なる。
 情報コンサルタントのSVPジャパンによると、クライアント自身が、情報収集の目的もそのための情報源も分かっている比率が以前に比べて下がっていると言う。つまり、必要な情報が何であるか見えにくくなっているのである。それは社会的変化の速度が増し、事業領域や商品カテゴリーが多様化、複雑化していることによる。
 そのため情報コンサルタントの役割は、まず問題を定義するところから始まる。クライアントが何を知りたいのかではなく、なぜとか何のためにとかの相談からやらなければ本当に必要な情報を見つけ出すことはできない。おそらく、重要度から言ってそこまでが全体の70パーセントの比重であると言われている。

開発コンサルティング

 本書では民間企業に対するコンサルティングサービスを対象として説明が行なわれているが、コンサルティングには公的な大規模開発に関わる開発コンサルティング(Development Consulting)と呼ばれる領域がある。多くは国際的なプロジェクトと言ってよい。民間ベースでの建設コンサルティング、リゾート開発コンサルティングとも重なる領域であるし、当然コンサルティング会社としては公的プロジェクトと民間プロジェクトの両者に対するコンサルティング業務を行なっている。
 第二次世界大戦後、先進国の戦後復興についで発展途上国のダムや港湾等の大規模土木事業を対象にして開発コンサルティングは始まった。その後開発プロジェクトがその範囲を電気通信、交通システム、農業、そして観光や教育へと広げていくと同時に、開発コンサルティングの守備範囲も広がっていったのである。
 膨大な予算と長期にわたる開発期間を必要とするこれらの開発プロジェクトに関するコンサルティング内容はきわめて高度なものとなっている。技術、組織、財務、環境保全を含む広い領域の専門性が要求されるからである。

個人を対象としたコンサルティング

 第1章において広辞苑では「コンサルタント」がどのように説明されているかを確認したが、その中で、例として「経営コンサルタント」とともに「結婚コンサルタント」があがっていたのは興味深い。
 われわれはビジネスにおけるコンサルティングを考えてきたわけであるが、一般的には確かに、結婚コンサルタントやファッションコンサルタントといった個人を対象とするコンサルタントが知られている。中には「消費生活コンサルタント」や「着物コンサルタント」のように資格制度が整備されているものもある。
 ビジネスと個人の両方の領域にまたがって、最近ではカラーコンサルタントという職業が成立しているようで、新聞や雑誌に登場することも多い。このカラーコンサルタントの場合は、個人も企業も対象としたコンサルティングを行なっているようである。
 個人に対しては言わば、スタイリストと同様にパーソナルカラーの選定とカラーコーディネーションに関するファッション上の助言を与える。企業に対しては商品のカラーコーディネートを行なったり、オフィスや工場のカラーシステムの設計を手伝ったりするのである。
 また、不動産コンサルタントの場合は、クライアントが企業であることも個人であることもある。税制上の相違はあるが、活用面ではまるで逆の判断ということは少ないのではないだろうか。
 あまりいい加減なものにまで、コンサルティングやコンサルタントをつけてしまうのには異論がある。しかし、体系化された専門知識と経験を前提として、調査、診断を行なって助言を与えるという原則が守られていれば、個人ベースでもコンサルティングの一層の利用が行なわれてもよいのではないだろうか。

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目  次

第5章
コンサルティングにはどのような領域があるか