4 活用のポイント

社内の受け入れ体制を整える

 以上、コンサルティングの手順に対応して注意事項を述べてきたが、次にコンサルタントとチームを組む推進担当者が全般にわたって持つべき基本的考え方をまとめてみよう。
 推進担当者として最も高度な仕事は、社内のコンサルティング受け入れ体制を作ることである。
 外部コンサルティング利用に期待する要素は、前にも述べたように、専門性、経済性、客観性である。しかし、これに加えて、社内への刺激という効果も無視できない。つまり、本気であることのデモンストレーション効果も大きいということである。
 まず、経営トップ層がコンサルティングの必要性を十分理解し、社内にも強力にアピールしなければコンサルティングの効果は上がらない。その他にも、社内セミナーやインタビュー調査を通じてプロジェクトの理解と協力意識を高めていかなければならない。
 社内報などがある場合は、プロジェクトの内容についての記事や、コンサルタントの紹介記事を掲載してもらい、浸透を図ることも有力な手段である。
 先ほども述べたように、いくつかの理由で自分の領域に外部の人間が入ってくることに抵抗を示す人々がいる。このような抵抗に対処できることも、コンサルタントの能力であるとも言える。しかし、コンサルタントがそのために労力を費やさなければならないとしたら、どう見てもコンサルティングの効率が悪いことは明らかである。担当者が環境整備のために果たす役割は重要である。
 そのコンサルティングが企業の問題解決のため不可欠だとしたら、保身のため、コンサルタントに協力的でない人は、企業に対して不利益を与えていることになる。そのことに気づかせなければならない。
 また、コンサルタントと現場のマネージャーをライバル関係にしてしまうことは避けなければならない。コンサルタントの成功イコール管理者の能力不足の証明という図式は最悪である。名言しないまでも、そのような態度が感じられれば、現場の反発を呼ぶことは必至である。
 これは簡単なことではないが、コンサルティングの導入が経済的であるということを分かってもらわなければならない。この点に関しては、第4章のコンサルティングの料金体系の分析を参考にしていただきたい。
 さらに、協力度を高めるためには、コンサルタントの中立性を認識してもらう必要がある。企業内の特定の個人や派閥の味方であるといった印象はよくない。プロジェクトが派閥抗争に巻き込まれると、仕事がやりにくいことこの上ない。時には最初から、派閥対抗上の武器としてコンサルティングが利用されることもあるというが、本当にその企業のためになるのかは疑問である。

コンサルタントは乗せて使え

 人間、自分が評価されていると感じれば、より大きな成果出す。特に、企画とかコンサルティングといった個人の意欲が大きな要素になる領域はこの傾向が強い。
 クライアント側で専門家として、十分な敬意を払った対応をすれば、それに応えようという気持ちになる。何をしていても意識のどこかで、常にクライアントのことを考えているようになる。発想や知恵は質が最も重要であることは確かであるが、「気づき」の多さや頭を働かせた時間といった量的なものにも比例することはまちがいない。コンサルタントをそういう気持ちにさせる努力をすることは決して、つまらないこととは言えないだろう。
 ただし、表面だけ敬語を使って取り繕ってもうまくいかない。先ほど説明したようにオリエンテーション時の資料の整備、事前の準備など、実態が伴っていなければならない。
 料金的な問題も大きい。ケチらないで、そのかわりより大きな成果を期待するという考え方が必要である。「安物買いの銭失い」という言葉があるが、コンサルティングの分野ではこのことがよく当てはまる。
 少し卑近な例で言えば、出張時の移動の際、契約内容以上のグリーン車を手配する。グリーン料金の追加はたかが知れているが、コンサルタントの意欲向上は小さくないのである。

遊ばせてはいけない

 予備調査時の注意事項で説明したように、クライアント側の準備が不十分であると時間の無駄が発生する。ある程度の規模の組織にいると忘れがちであるが、時間こそコンサルタントの商品であることを理解して対処しなければならない。
 多少の世間話は必要かもしれないが、そればかりに終始したり、専門家でなくてもできる作業をコンサルタントにさせてしまったりすると問題である。第4章で説明するが、コンサルタントの料金は専門的な相談に乗ることを前提にして設定されているからだ。牛刀をもって鶏を割くようなことをしてはいけない。
 コンサルタントとの打合わせや作業に際しては、十分な準備を行ない、コンサルタントの能力を目いっぱい引き出すようにすべきである。
 先ほど述べたように、このような姿勢はコンサルタントを乗せる、、、ことにもなる。「人使いが荒い」とこぼしながらも内心は満足しているものである。

文書主義で対応する

 契約書の説明の時に、文書主義で対処すべきであると述べた。コンサルティングが導入されるようなプロジェクトの場合、日常の取引のように慣れ親しんでいる業務ではないからである。しかも、往々にして企業機密に関わる問題に関与する。約束ごとや途中経過は文書にして記録しておかないと後で曖昧になってしまう危険がある。
 また、専任の担当者以外の経営トップや常務会役員たちは、調査結果の報告や改善・推薦案の提案の際に時々関与してくるだけであるから、忘れている事項も少なくない。このためにもキーポイントごとにコンセンサスを取ってから先に進めるとともに、決定事項、確認事項は文書にしておかなければならない。
 ただし、守秘義務に関して触れたように、作成された文書の管理には細心の注意が必要である。どの文書を誰に渡すべきか、目的と機密レベルに応じたルールをしっかり作るべきであろう。作られた文書は、マスターとして時系列にファイリングを行ない、必要な時にすぐ参照できるようになっているのが理想である。

チーム編成

 コンサルタントとクライアントの推進担当者は、一つのチームと考えるべきであろう。プロジェクトの成否はコンサルタントと同じくらい、推進担当者の人選に関わってくる。
 どのような人を推進担当者にすべきであるかは、コンサルティングの領域や企業のおかれている状況によって異なるので一概には言えない。しかし、誰が担当者になるかによって、社内のそのプロジェクトに対する見方が変わる。できると評価されている人が指名されれば、それが重要なプロジェクトであることをアピールできる。あまり評価の高くない人が担当になれば、そのプロジェクトはそれほど重要でないという印象を与えてしまう。
 本書は基本的に、実力のある部長クラスの人がチームリーダーになるべきだと考えている。ただし、補佐役に若手の実力者をもってきた場合の効果も決して少なくない。
 推進体制に関しても、コンサルティング事項の一つではある。プロジェクトをうまく進めるために、コンサルタントは当然、担当者として理想の人材を望む。しかし、こればかりは社内事情のほうが優先されるのはしかたない。

担当者の姿勢

 クライアントの担当者で最もいけない態度は、コンサルタントのお手並み拝見という態度である。うまくいかなかったらコンサルタントの責任という考え方はよくない。企業をよくするために、ともに働くという意識が必要である。
 第5章でコンサルタントの能力について論じるが、コンサルティングを成功させるには、むしろ、コンサルタントにすべて依存するのではなく、自ら努力してコンサルタントの未熟さをカバーすることが重要である。すべてに優れたスーパーマンのようなコンサルタントはそうはいない。コンサルタントにも得手不得手がある。医者にしても見立ては素晴らしいが、手術はだめという人もいるし、その逆もいる。
 担当者とコンサルタントは二人三脚と言ってもよい関係だと考えるべきで、片方が転べばもう一方も転んでしまう。自分だけ無傷に済まそうとしてもうまくいかない。残念ながら、コンサルタントの能力に問題のある場合は、それをカバーする気持を持つことだ。
 コンサルタントとしても、担当者に対しては可能なかぎり本音の部分も含めて話すべきである。担当者が社内の人間に説明するための最低限の知識もオープンにしないようでは、担当者は子供のお使いしかできない。それでは立場がない。
 たとえば、報告書や提案書に関する知識の問題がある。クライアント側は、プロジェクトの進行に応じてアウトプットされる報告書や提案書がどのようなものか知らない。そのため、担当者は社内でそれらがどのようなものであるか質問されることが少なくない。「知りません」とか「見たことがありません」とか答えるのでは立場上つらい。コンサルタントは、守秘義務の範囲内で、他社例などを見せてあげるぐらいの配慮が欲しい。
 ただし、改善・推薦案の開発時の注意事項で述べたように、コンサルタントと担当者は役割分担をしっかりしておくことも大切だ。
 要約すれば、担当者とコンサルタントはなれ合いにならない範囲で、相手の立場に配慮して信頼関係を形成、維持してプロジェクトを進めなければいけないということである。

経営トップとの関係

 社内受入れ体制のところで、経営トップ層の役割について触れたが、推進担当者としてはコンサルタントと経営トップとの関係を継続的に良好に保つ必要がある。経営トップが「コンサルタントとは最初に会って話しただけだ」という状況が明らかになれば、プロジェクトへの協力度は下がる。経営トップとの顔合せのためにインタビュー調査以外にも、懇親会などの開催が必要であろう。
 人はあまり耳の痛い話は聴きたくないものである。経営トップも例外ではない。一度は医者にかかる決心をしておきながら、検査や手術がいやで一日のばしにすることが多い。推進担当者としてはここで覚悟が必要になる。いやがられても現状をしっかりと認識してもらい、プロジェクト推進の必要性を頑張って説得しなければならない。
 結局、コンサルティングの本当の活用は、推進担当者がそのプロジェクトにコミットメントしていなければできないことなのである。

コンサルティング活用チェックリスト

 以上をやるべき事項と避けるべき事項に分けてリストにすると次のようになる。

 やるべき事項

  • □ 経営トップ層にコンサルティングの有効性を認識させる
  • □ 社内セミナーにより社内の理解を促進する
  • □ 社内報を活用する
  • □ コンサルタントへの情報開示のルールを明確にする
  • □ コンサルタントは乗せて使う
  • □ 文書主義(ドキュメンテーション管理)を守る
  • □ コンサルタントとは二人三脚と考える
  • □ 経営トップとコンサルタントの定期的な接触を図る

 避けるべき事項

  • □ コンサルタントを遊ばせない
  • □ 誰にでもできる作業はコンサルタントにやらせない
  • □ 現場の管理者とライバル関係にしない
  • □ コンサルティングを権力争いの道具にしない

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目  次

第3章
コンサルタントの選定と活用のポイント