3 コンサルティング手順と注意事項
予備調査時の注意事項
コンサルタントの選定が終わると、第2章で説明したように、一般的に予備調査が行なわれる。この時点で気をつけるべきことは、次の項目である。
- 段取りよくスケジュールを設定する
- 必要資料は脱漏なく収集する
- 予備調査の費用を明確にしてから進める
まず、段取りよく作業を進めることである。具体的にはオリエンテーション資料の収集および作成を迅速に行なうこと、インタビュー調査のセッティングや見学の計画を要領よく行なうことである。
また、漏れのない、分かりやすい資料があれば、コンサルタントはクライアントの概要を早く正確に理解することができる。オリエンテーション時に資料が不備であったり、質問に答えられなかったりしたら、日を改めて追加のオリエンテーションが必要になる。
そもそも、オリエンテーションの準備が不十分でいい加減であるということは、クライアント全体とは言わないまでも、担当者がそのプロジェクトを重視していない証拠である。あるいは本人が基本的に真面目な態度を持たないといった場合もあるかもしれない。この場合は、窓口担当者を選んだ人に責任がある。
どちらにしてもコンサルタントの立場から言えば、このような不備が目に余る場合はコンサルティング依頼を断りたくなる。断らないまでも、それに応じた対応を考える。たとえば、スケジュールをゆっくり設定することや、予算を高く設定することである。これは当然であって、今後の打合せや作業の密度が低いことが予想できるからである。
このような場合、はた目に見ると費用対効果の点でコンサルタントの能力が低いように見える。クライアント側ではコンサルティング効果に対する不満がでる。一方、コンサルタントの側ではクライアントの対応に不満であり、結果として関係が悪化する。残念なことであるが、このようなケースは決して例外的なものとは言えないのが現実である。
本来、コンサルタントとしてはこのような不備をしっかりと指摘すべきなのであるが、コンサルタントも人の子、誰しもが毅然たる態度をとれるとは限らない。結局はクライアントにとって不利益になるのであるから、クライアント側でこのようなムダ使いに気をつける必要がある。
さて、何度か説明してきたように、予備調査前後の時期はコンサルティング契約をいつ交わすかが問題となる。コンサルタントとこの点に関する折衝が必要となる。
この場合、予備調査の前にプロジェクト全体を通したコンサルティング料金やスケジュールを提出するコンサルタントは信用できない。これも前に述べたが、医療に例えると診察をしないで薬を出す医者に似ている。
ただし、予備調査に関しては予算もスケジュールも出せるはずである。医療でも人間ドックの費用は定額で相場があるのと同様である。
本調査時の注意事項
本調査の準備から実施に関しては次の注意事項が考えられる。
- 予算措置に必要な時間を考慮してスケジュールを設定する
- 調査はコンサルタント任せにしない
- 調査に関する社内の協力体制を作る
予備調査結果から自動的に本調査の計画が出来上がるわけではない。クライアントの都合もあるからである。コンサルタントとクライアントとの間でいくつかの点で調整が必要となる。外部の調査会社を必要とするような大きな調査の場合は、予算措置を必要とすることもある。また、クライアントの他の企業活動との関係でスケジュールの調整が必要になる。
一方、クライアント側の都合ばかりでなく、コンサルタント側にもキャパシティの問題がある。
プロジェクトの担当者は、この調整のための時間を全体スケジュールで見落としてしまうことが多い。特に予算措置は企業の会計年度に制約されるので、時機をまちがうとプロジェクトがペンディングになってしまうこともある。
さて、第1章で説明したように、コンサルティングの本質は判断力を提供することであり、調査の実査は必ずしもコンサルタントが行なうものではない。そもそも、本調査とは判断のためのデータおよび情報を作成することである。もし、コンサルタントが関与しないで判断に必要な調査が可能であれば、誰が調査をしてもかまわない。
極端に言えば、現実を正しく反映した資料であれば手段やコストは問われないということである。
コンサルタントの役割は、クライアントがその調査のやり方や依頼先が分からない時に助言することである。あるいは、調査票のプロトタイプを提供したり、調査会社を紹介することである。
社内のコンサルティングに対する理解は十分かという点も大きなポイントである。先ほど、守秘義務に関連して説明したように、基本的には必要なデータのコンサルタントへの公開が要請される。しかし、その必要性や公開の基準に関して企業内でコンセンサスがとれていないとしたら、調査の効率は低下する。調査の主旨説明と協力依頼が行なわれ、十分な理解が必要とされるだろう。
調査に対して非協力的な態度をとる場合は次の理由が考えられる。
- 犯罪や不正が行なわれている場合
- 知られたくない失敗を隠している場合
- 管理能力不足を知られたくない場合
犯罪や不正は論外と思われるだろうが、現実には決して少ないとは言えない。この場合、どの程度の規模でどの範囲の人々を巻き込んだものなのかによってプロジェクトに与える影響も違う。上層部を巻き込んでいる場合は、プロジェクト自体にストップがかかることになるだろう。そうでなくても、かなりの抵抗を覚悟しなければならない。
罪の軽い犯罪や不正すれすれの行為は、あるいは何らかの失敗や管理能力不足の問題は往々にしてどこにでもあるもので、この責任に対する追及をどうするのかによってコンサルティングは大きな影響を受ける。
ファクト(事実)をつかむという本来の目的に加えて、失敗の責任追及を伴うような調査の場合はうまくいかないことが多い。できることなら、責任追及と切り離した調査であることが望ましい。
そもそも減点主義の企業体質であると、失敗は可能なかぎり隠ぺいしておくといった傾向がある。企業文化的にも病根が深いと言わざるを得ない。これ自体を問題として取り上げて、コンサルティングを導入すべきなのかも知れない。
ともかく、正規の本格的なコンサルティングを導入するということは、このような問題を明るみに出すということでもある。ある意味ではコンサルティング導入という意思決定自体が、企業の健全性、あるいはその志向性の証明になるとも考えられる。
また、インタビュー調査の場合、非協力への対処と逆の配慮も必要になる。インタビューの対象者を誰にするかを決定することはそれほど易しいことではない。「あいつに聴いたのに俺に聴かなかった」という問題が起こる。
近年話題になっているCS(顧客満足度)調査にしても、調査結果の内容以上に、調査対象者が「俺に聴きにきた」ということで満足度が高まるという効果が無視できないと言われている。インタビュー調査は本当に必要な情報を採るという目的ばかりではないことを忘れてはならない。
本調査の結果報告に関する注意事項
調査の結果は最終的には報告書にまとめられるが、それに先だって報告および説明会が必要になる。
- 結果報告はコンサルタントの見解であることを銘記する
- 報告会の出席範囲を慎重に決める
- 調査結果のフィードバックを戦略的に行なう
第2章で説明したように、調査結果はあくまでもコンサルタント側の見解である。調査報告を受けてから、クライアント側はその内容に関する検討を始めなければならない。つまり、コンサルタントが報告した現状に対する認識、設定された目標、問題点などの問題の構造分析が妥当なものであるかどうかに答えなければならない。
この場合問題になるのは、どの範囲の人々がこの検討に参加するべきなのかという点である。これもケースバイケースであるが、基本的には経営トップ層への報告から始まって、取締役会、部長会等へ降ろしてくるのが普通である。コンサルティングの場合、この逆の下から積み上げる方式は問題がある。それこそ、耳触りのよい、作られた報告がトップに届くことになる。
この辺りのマネジメントができるかどうか、プロジェクト担当者の力量が問われるところである。
調査結果の社内へのインフォメーションをどうするかも重要な問題である。インタビューやアンケートに答えた人々になしのつぶてでは、プロジェクトへの協力意欲に悪影響を与える。しかし、一方では調査結果をどこまでオープンにするかを十分に考慮する必要がある。内容によっては競合他社に企業秘密が流れてしまう可能性があるからである。先ほどの問題とも関連して、経営者に対してもストレートに報告してしまってよいのかどうかも考慮しなければいけない。原因の分析や対応策の考察もなく問題点のみを明らかにしてしまうと、魔女狩りのような結果にならないとも限らない。
改善・推薦案の開発における注意事項
問題と目標に関してコンセンサスができると、本書では「改善・推薦案の開発」と呼んでいるが、現状システムの改善案や新システムの設計局面に入る。この時点の注意として次のものがある。
- 理想論と現実的対応のバランスを考慮する
- 提案内容(特に予算関係)の裏付けをきちんとする
- 実施時の担当者を関与させる
第2章で述べたように、ここを単なる理想論や建前論の作成で終わらせてしまってはいけない。プロジェクトの推進担当者にこのような意識があれば、往々にしてコンサルタントもそのような対応をしがちである。
理想的状態を方向性として示しながら、現実的な対応をするといった考え方が必要になる。このへんのバランスは実はきわめて難しい。
コンサルタントの側にすれば、効果の期待できない現状追認的な提案は立場上、できない相談である。クライアントの内部でも「偉そうなことばっかり言っていたが提案はその程度か」といった評価を受けたり、それが外部に伝わったりしたら存在価値が問われるからである。それくらいなら、理想論をあげておいて、うまくいかなかったらクライアントに実行する力がなかったと逃げを打つほうが賢いと考えるだろう。
このへんの調整が、プロジェクト担当者の本領が発揮されるところである。コンサルタントにはある程度理想的な状態から次善策までを作成してもらい、自身の責任において実行プランを作成するといった手段をとるべきであろう。この辺りがコンサルタントに了解されていれば、この実行プランの作成に関する助言は十分に得られるであろう。
また、当然のことであるが、改善・推薦案を採用するか否かの決定は、必要とされる予算次第である。いくらかかってもよいなどという話は、企業であるかぎりあり得ない。導入実施時とその後の運営にかかる経費的な押えがなければ判断しようがないのである。
これは不可能な場合も多いが、実施時あるいはシステム導入後の責任者になると想定される人間を何らかの意味で関与させておくことも重要である。プランの段階で関係していなかった場合、当事者意識が弱くなるのは人情である。
改善・推薦案の提案における注意事項
- 誰に対する提案なのかを明らかにする
- プロジェクト推進の基本的経緯をおさらいする
- 複数の選択肢を提案する
調査報告と同様に、誰に対して行なう提案なのかを明確にする必要がある。本書のこの章では、基本的に経営トップを想定しているが、場合によっては同時に部長までを含んだプレゼンテーションになる場合もある。つまり、システムの改善に関して責任がある当事者が出席している場合である。このような場合、実施時のスムーズな進展を考慮して提案が行なわれる必要がある。ある程度の根回しは事前にしておくべきであろう。
これはむしろ、コンサルタント側の問題であるが、提案時にはそもそもどのような前提でそのコンサルティングが始まり、何を目的として調査が行なわれたのかを最初に確認してから行なわれなくてはならない。
時には、プロジェクト開始時と提案時とでは状況が異なっている場合もある。たとえば、景気が下降局面に入ってきたり、社長交代が行なわれることもあるだろう。そのような場合、プロジェクト開始時の前提条件とどこが変化したかを明確にし、改善・推薦案もそれに対応したものにする必要がある。コンサルタントによっては、自分の手法を紋切り型に提案する人もいるので注意すべきである。
経営トップへの提案の前に、コンサルタントと担当者は提案内容に対して調整をしておく必要がある。ここで難しいのはコンサルタントの提案内容に対して担当者がどの程度、関与あるいは変更要求する権利があるかという点である。これも状況によるし、コンサルタントの考え方、担当者の立場にもよるので、一概には言えない。
第1章で述べたように、コンサルタントはいくつかの選択肢を提案すべきである。判断とは客観的なものではない。決定者の性格や価値観で判断は異なり、一様でないことを忘れてはならない。
実施指導時の注意事項
- 予算措置をにらんで実施計画を考える
- 実施時のスタッフおよび協力者にプロジェクトに関する十分な理解を求める
- きちんとしたフォローアップを行なう
予算措置に関しては、本調査の計画時以上の注意が必要である。予算措置に手間取って、提案から実施までの間が開いてしまい、プロジェクトの勢いがそがれてしまうというケースは少なくない。そもそも、プロジェクトの全体計画を立てる時に、全社的年度予算作成時期をにらんでおくべきである。
実施時には、社内的にも新しいスタッフを入れた組織化が必要になる。とかく失念しがちであるが、彼らはそのプロジェクトの目的や調査と提案の経緯に関してすべてを知らされてはいない。オープンにできるかぎりは、必要な知識に関する説明会を持つべきであろう。プロジェクトの開始から、調査分析を経て改善・推薦案の提案まで関わってきた担当者は往々にして勘違いを犯す。実施計画の目的や必要性は明らかであると思い込んでしまうのである。この点は注意しなければならない。
また、外部の協力会社に対しても、基本的事項に関しては十分な説明を行なうほうがよい。時には質問や、意見によって実際的な工夫や手法が見つかることも少なくない。
調査会社の紹介と同様に、実施に関わる外部のサービス会社の紹介をコンサルタントが行なうことが多い。もし、より安いという理由でクライアントが別のサービス会社を採用した場合、質とスケジュールに関してはリスクが増大することを覚悟する必要がある。知らないサービス会社に対して、コンサルタントは責任を持てないからである。それほどの価格差がないかぎりは、紹介を受けたところに依頼するほうがまちがいが少ない。
第2章で説明したように、計画段階に比べて実施段階は別の難しさがある。予想できない障害やトラブルが出現する。ここが頑張りどころである。また、コンサルタントとしても存在価値が問われるところでもある。よくある例としてシステムが安定的に稼働し始める前に、コンサルティング契約を終わらせてしまったり、担当者を外してしまうことがあるが、これは避けるべきであろう。最低限、オブザーバーとして残しておくべきだと考える。
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