2 今後の変化と展望
外部監査機能としてのコンサルティング
第1章でも述べたように、クライアントがコンサルティングを利用する主要な動機には次の3つが考えられる。
- 専門的知識の提供(専門性)
- 経費の節減(経済性)
- 客観的な意見(客観性)
右記に関していままでの説明でかなり理解していただけたと思われるが、最近では最後の「客観的な意見」が特に注目されてきている。分野によっては監査というべき重要性を持つものも少なくない。
さて、「監査」という言葉は不当な強権発動的な印象がある反面、日本における会計監査の場合はおざなりでなれ合いという実態がある。このことは良くも悪くも日本の社会の特徴の一つではあるが、ボーダレス化が進展している現在、「監査」の本来の意味での使われ方が望まれている。
「監査」とは組織と機能の健全性をチェックすることであり、それらをスポイルするものではない。この数年、日本企業では企業ぐるみの犯罪や、法的にはともかく社会倫理的には問題があるような事件、不祥事があいついでいる。そのためいくつかの業界では、中立なチェック機構の必要性が呼ばれ、対応が忙しく進められている。
そもそも、企業の活動は意図的であるかどうかを問わず、社会や自然環境に対してなんらかの影響を与えずにはいられない。また残念ながら、経済効率を第一義に考えて意思決定する企業の内部チェック機能だけでは、「見つからなければ…」意識の不法行為や反社会的な行為の防止はなかなか難しい。
時には、企業内の情報システム上の問題で本来必要なマイナス情報がトップ経営者に届いていないということも少なくない。このような場合は経営者が正しい倫理観を持っていたとしてもまともな対応ができないであろう。
また、意図していない場合でも、気づかない過誤や欠陥が存在することもある。失敗には行動したことによる失敗(error of commission)と行動を怠ったことによる失敗(error of ommisson)があるが、先にも述べたように経営者は知らずに放置したことの責任も取らなければならないことを忘れてはならない。
コンサルティング機能における「客観性」は「監査」につながるものであることを説明したが、最近では「システム監査コンサルティング」や「環境監査コンサルティング」のような「監査機能」が明確にされたコンサルティング業務が登場し、注目されるようになった。
企業は社会的存在としてより広い領域でチェックオブバランスの考え方に立った、外部専門家の導入を迫られているのである。
アウトソーシングの時代
近年、コンピュータシステムの領域では、メインフレームと呼ばれる大型のコンピュータを自社で所有することをやめて、外部の企業へ業務全体を委託する形態が増えてきた。これはアウトソーシングと呼ばれている。
多くのシステムは、ハード的にも人員の点でも作業量のピーク時に合わせた容量を必要とするが、そのことにより多くの時間帯は資源を遊休させていることになる。このような無駄を回避して、外部の企業が複数のシステムを運営することにより資源の有効利用を可能にすることがアウトソーシングの狙いである。
結果として、ハードばかりでなく、これまで自社でかかえていたシステム部門も大幅に縮小されることになる。経営的には固定的な負担の軽減が図れるというメリットがある。秘密保持さえ保証されれば大きな不都合はない。
さて、コンピュータ利用の歴史を見てみるとハードがきわめて高価で一企業が単独で所有できなかった時代、TSS(タイムシェアリングサービス)という現在のアウトソーイングに通じるサービスが存在した。その後、ハードの価格は加速度的に低下し、各企業は独自にハードを所有してコンピュータを利用する時代が長く続いたのである。
その後、いわゆるハードに関わるコストとソフトに関わるコストの比率が逆転し、その差が広がっていった。さらにシステム運用にかかる人的経費も上昇を続けた。アウトソーイングはハード的な要素以上にソフトや人件費の負担増という要素によって進展したのである。
コンピュータシステム部門のアウトソーイング登場は、今後の経営戦略上の大きな示唆を与えている。経営資源を自社で所有することによる効率の悪さを避けるためには、コンピュータシステム以外の機能もアウトソーイングする方法を検討すべき時代を迎えているのではないだろうか。
コンサルティング活用の専門家
本書では専門的な知識と経験の獲得には、相当の時間がかかり、金銭的な投資も必要であることを説明した。獲得した知識や経験が一度や二度しか生かされないのでは投資効率が悪い。コンサルティング活用を勧める理由はここにあるわけである。
さて、第3章で説明したように、コンサルティングを活用するクライアント側にもそれなりの活用のための知識と経験が必要である。そうすると同じことが言える。せっかく獲得したコンサルティング活用ノウハウは繰り返し生かされるべきである。
一方、企業経営の中に先ほど説明した「アウトソーイング」が取り入れられるようになると、外部のコンサルティングや人的サービスを活用することが増えてくる。そうなると、個別のコンサルティングテーマごとに、別々の担当者が窓口になっていたのでは効率が悪い。場合によってはいくつかの施策を同時に行なったほうが効果が高いこともある。この場合、全体調整を行なう必要がある。
つまり、企業としては外部コンサルティングと効率的な共同作業を行なうことのできる専門家と専門部署を持つ必要があるのではないだろうか。
人材派遣サービスとの融合
今後の展望として、コンサルティング業務の提供と人材派遣業務との融合が進展するのではないかと思われる。
人材派遣業はタイピストやワープロオペレータ、あるいは一般事務など、専門性の低い分野から始まっている。しかし、その後、情報処理システム開発や同時通訳など、徐々に専門性の高い領域にその範囲が広がってきている。
また、コンサルティング業務には、特に提案を実施する際には、これに付随する人的サービスが欠かせない。
たとえば、販売およびマーケティング領域のコンサルティングで具体的な実施策として新しい考え方のショウルーム開発が行なわれる場合。まず、建築家やインテリアコーディネータを見つけてこなければいけない。出来上がってからは、ショウルームを運営するスタッフも必要になる。商品説明や接客マナーの教育の問題もある。
ある意味ではクライアント側の甘えの構造ではあるが、専門家から一般スタッフまでを紹介、派遣してもらえるなら、それに越したことはない。今後のコンサルティングサービスは調査分析から提案、指導を超えて、最終的なシステムの運用まで求められることになる。
内部コンサルタント
「コンサルティング」という言葉には2つの据え方がある。相談に応えたり助言を与えるという機能としての観点と、ビジネスとしての専門的なサービスという観点である。本書は、言うまでもなく後者の観点からコンサルティングを説明してきた。つまり、外部の専門家が有料で行なうコンサルティング業務を中心に論じてきたわけである。
言葉の順番からいくと、機能としてのコンサルティングが企業内に生まれ、それが外部化したのが、ビジネスとしてのコンサルティング業務のように思われる。しかし、歴史的にはこの逆の経緯をたどっていると言うほうが正しそうである。
科学的管理法で知られる経営学の創始者、F・W・テーラーは1893年にコンサルティング・エフィセンシー・エンジニアと称し、事務所を開発した。まさにコンサルティングビジネスの歴史は100年になるのである。
このエフェセンシー(efficiency)が能率と訳され、日本に紹介された。そのため日本の代表的なコンサルティング団体は、「全日本能率連盟」「日本能率協会」「産業能率短期大学」(現在は産能大学)のように「能率」という言葉を含む名称を使用しているのである。
さて、このようにコンサルティングはビジネスとしての長い歴史を持つわけであるが、企業内において内部コンサルタント(internal consultant)と言うべき役割を担う人々が現れた。もともと、企業におけるスタッフ部門やファンクショナル組織を採用している場合は、実質的に内部コンサルタントであったわけであるが、より積極的に位置付けたものである。
内部コンサルタントが位置付けられるための条件がいくつかある。まず、複数の事業部門を持つ大企業であるか、分社化やグループ化が行なわれていることである。あるいはアセンブリーメーカーで、多くの部品および部材の仕入れ先をかかえている場合である。つまり、コンサルティング業務の継続的な需要があるということである。
これらがさらに進むと、コンサルティング業務を事業として位置付けて特殊な事業部を設立するような場合がある。大手建設機械メーカーのマニュアルやドキュメンテーションに関するコンサルティングを行なう事業部や、自動車タイヤメーカーのTQCのノウハウを提供する事業部などが知られている。
企業内の専門家はややもすると、その企業の需要を上回る専門性を身につけてしまうことがある。システムの導入が終わり、定常状態の運営が行なわれるようになると専門家は活躍の場を失い、存在理由がなくなる。
このままでは個人にとっても企業にとっても不幸な状態と言わざるを得ない。これでは、人を生かす経営ではあり得ない。自己実現できる環境作り、つまり在籍しながら外部のコンサルティングを行なうことが可能な環境が保証されなければならないのではないだろうか。そのような制度が必要とされる時代を迎えているのではないだろうか。
MASからCS(コンサルティングサービス)へ
時代の変化は、時として不滅のものと思われていた言葉を歴史上の言葉にしてしまうことがある。最近ではNICSやソ連がそうであったし、あるいは共産党という言葉も風前の灯火といってよいだろう。
あるいは本書で初めて目にしたかも知れない読者が少なくないと思われるが、「MAS」という言葉の消滅への序曲ともいうべき出来事を見てみよう。
たびたび触れたように、アメリカの会計事務所が行うマネジメントコンサルティング業務はMAS(マネジメントアドバイザリーサービス)と呼ばれてきた。歴史的には会計事務所がこのようなMAS業務を提供し始めたのは、1950年代までさかのぼることができる。1950年代は、マッキンゼーやブーズ・アレン・アンド・ハミルトンなどのジェネラルコンサルティングファームが本格的に活動し始めた頃であり、経験曲線の発見やPPM(ポートフォリオマネジメント)の開発で有名なボストンコンサルティンググループは1963年の発足であるから、MASの実質的な歴史はより古いということになる。
また、現在では会計事務所のMAS部門の売上は、専業のコンサルティングファームをしのぐものが少なくない。全体のボリュームからいっても最大の担い手と言える。
さて、アメリカ公認会計士協会は1992年の1月からそれまでのMAS業務基準(Statements on Standards for Management Advisary Services )に代わるものとして、コンサルティング業務基準(Statements on Standards for Consulting Services)の導入を行なった。
これは「MAS」から「CS」への単なる名称の変更にとどまらない。最も重要な点は会計事務所が行なうコンサルティング業務の範囲を広範囲に定義し直したことにある。会計士は会計上の業務指導や監査を通じて、経営戦略的判断の助言を求められることは少なくない。しかし、これまでの考え方では公認会計士が行なう本来の業務に付帯するこのような相談への応答や助言はMAS業務(つまり、コンサルティング業務)ではないとされていた。組織的にもMAS業務は会計事務所内の切り離された事業部門として位置付けられ、担い手もMBA取得者を中心に公認会計士とは違ったキャリアのものであった。
新しい基準では、経理、財務、税務などに関連する相談や助言も明確にコンサルティング業務であると位置付けられている。
新しいコンサルティング業務の内容
公認会計士協会が発表したコンサルティング業務基準では、時代の要請を反映して、この章で先に説明したようにコンサルティング業務を大変広く捉えている。
- コンサルティングの6つの機能(function)
- コンサルテーション(Consultation)
- 調査をほとんど必要としないクライアントからの質問に対して即答する
- 助言(Advisary service)
- クライアントの検討や意思決定のために発見や結論や勧告を開発する
- 実行(lmplementation service)
- 行動計画を実施に移す
- 取引(Transaction service)
- 一般的に第三者を含むクライアントの特定の取引に関連した業務を提供する
- スタッフおよびその他の支援(Staff and other support services)
- クライアントの指定した作業を行なう
- 製品提供(Product service)
- クライアントに製品とそれに関連した専門のサービスを提供する
- 「JOURNAL OF ACCOUNTANCY, NOVEMBER 1991」による
本書は、コンサルティング業務を人員の斡旋や特定の商品の販売とは切り離すべきであるという立場を取ってきた。その意味ではこの新しいコンサルティング業務の定義には問題がある。しかし、本来のコンサルティング業務を有効にするためのこのようなサービスは、コンサルティング提供側の責任でもある。コンサルティングの範囲を逸脱するので後は知らない、では済まなくなってきたことも事実であろう。
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