3 コンサルタントの姿勢

コンサルタントに必要な人間的能力

 ビジネスライクに考えれば、専門知識とコンサルティングに必要なコミュニケーション能力があれば、コンサルタントにそれ以上を望むべきではないだろう。しかし、組織が人を中心としたシステムである以上、人間としての魅力がコンサルティングにも大きな影響を与える。
 あるクライアントの担当部長から伺った話であるが、何人かの候補から最終的にコンサルティング依頼を決めたポイントは、「経営者と対等に話せる見識と迫力」という点だったそうである。
 コンサルタントの人間的能力を厳密に論じることは易しいことではないが、次ページに示す項目をあげることができる。

  • □ しっかりとした世界観や歴史観を持っている
  • □ 物事に対して前向きであるしっかりとした世界観や歴史観を持っている
  • □ 倫理観がある
  • □ 決断力がある
  • □ 思いやりがある
  • □ 健康である

 コンサルタントはクライアントの依頼に応じて、クライアントの利益を考えて相談にのることを原則とする。自分の考えや信念を押しつける立場ではない。ただし、世界観や歴史観を持たずにその場しのぎの提案をするようではクライアントのためにならない。社会正義に反するような場合はクライアントのまちがいを指摘する態度が必要である。
 コンサルタントはその存在だけて組織への刺激源になる。特に前向きな姿勢は組織の活性化をもたらす。経営トップ同様、プラス思考が望ましいのであって、マイナス思考ですべてに否定的な見解を示すコンサルタントでは困る。困難な中に最適解を見つけようとする態度こそが必要とされる。
 守秘義務の遵守や、成功報酬を要求しないことは当然である。また、クライアントの承諾なしに、直接競合する他の企業のコンサルティングを行なわないことは倫理以前の問題である。
 コンサルタントの倫理の問題は企業の社会的評価とも大きく関わってくる。コンサルタントがクライアントの犯罪行為に荷担したり、見過ごしたりするようではゆくゆくは企業自体の社会的信用を失墜させる事態を招く。最近では法的に問題がなくても、反社会的行為として糾弾される場合も少なくない。この辺りも中立な立場でクライアントに対して助言する義務がコンサルタントにはあるのではないだろうか。
 活用のポイントで触れたように保身のため、コンサルタントに協力的でない人がいる。その場合は、誠実さや思いやりのような人間的魅力が相手の警戒をといて協力しょうという気持ちにさせる。
 コンサルティングというビジネスは、最終的に良好な人間関係を作るところまでもっていかなければならないと言われる。情報収集も改善案の策定や実施も、成功するためには良好な人間関係が前提とされるからである。
 対クライアントばかりでなく、情報源としての人脈を考えると、日常の人付合いの能力や努力が必要ということになる。
 ただし、あまり人がよくて弱腰のコンサルタントも問題である。時としては毅然とした態度が必要になる。これは決断力の問題であろう。
 最後に、長期の煩雑な作業にも、人間関係の煩わしさにも耐えられる肉体的、精神的健康がコンサルタントの能力の決め手になるであろう。

コンサルタントの倫理

近年、企業および企業人の倫理が大きな問題となってきている。利益追求が民間企業の原理であるために、その行過ぎが往々にして起こるからである。この辺りをチェックすることもコンサルタントの存在意義の1つである。そのためにはまず、自分自身の襟をただす必要があり、コンサルティングを行なう団体はそれぞれの倫理規定を持っている。

 主要な項目は次のように要約できる。

  • □ 依頼者の利益を優先する
  • □ 守秘義務を全うする
  • □ 直接競合する他の企業の依頼を引き受けない
  • □ 能力を超える依頼は受けない
  • □ 成功報酬は請求しない
  • □ 犯罪行為に荷担しない

 参考のため、日本生産性本部の倫理規定を示す。

日本生産性本部コンサルタント倫理規定

  • われわれ日本生産性本部コンサルタントは、生産性向上運動の3原則に基づき、コンサルティングをとおして、生産性向上の推進につとめなければならない。
  • われわれは、コンサルタントとして、常に資質の向上につとめなければならない。
  • われわれは、依頼者の長期、持続的利益を優先的に考えて行動しなければならない。
  • われわれは、個々の経営技術の導入のみに終ることなく、経営者および従業員に原理、原則を十分に理解し応用し得る能力を与え、指導終了後も自力で向上しうることを目標としなければならない。
  • われわれは、業種、規模の大小にかかわらず、コンサルティングが有効である企業あるいは組織についてのみコンサルティングを引き受ける。
  • われわれは、すべて、客観性と、真実性に基づいた判断をしなければならない。
  • われわれは、自身と尊厳を保持するが、能力以上の仕事を引き受けようとしてはならない。また着手後といえども他のコンサルタントの協力と援助を受け入れる雅量がなければならない。
  • 仕事中に得た資料、情報については、その秘密を厳重に保持しなければならない。仕事中に得た資料、情報について、発表したいときは、必ず依頼者に事前の諒解をえなければならない。
  • 依頼者に対しては、コンサルティングの目標、範囲および費用について事前に説明し、その諒解をえなければならない。中途で計画を変更する必要が生じた場合も同様である。
  • われわれは、人事の斡旋、紹介については、原則として、これを行わない。
  • われわれは、依頼者が機械設備等の導入購買をなすに際し、依頼者以外の利益を目的として、斡旋紹介してはならない。
  • われわれは、自己の業績を吹聴したり、他のコンサルタントまたは団体について、誹謗したりしてはならない。

コンサルティング能力のチェックリスト

 以上、コンサルティングに必要な知識、技術、コンサルタントの姿勢を見てきたが、プロジェクトの進行に即したコンサルティング能力を見てみよう。
 基本的にはコンサルティング能力とはクライアントの問題解決の手助けができる能力であり、その能力のチェックポイントは次の項目である。

□ 企業経営の仕組みを理解しているか

 どの分野の問題解決にしても、実効のあるコンサルティングが行なわれるためには、企業体や経営の全体像を知り、当該問題が全体との関係で考慮されなければならない。

□ 当該領域の問題構造を理解しているか

 複雑に絡む問題の原因と、それによって引き起こされている結果や、あるいは将来の結果の予想に関して、論理的に把握し、説明できなければならない。

□ 現状分析、問題発見のための調査手法を持っているか

 問題解決のためにはすでに顕在化していながら気づかないでいる問題や、潜在している問題とその原因を見つけ出すための効果的な調査分析の方法に、熟達していなければならない。

□ 解決方法の策定力と提案力を持っているか

 問題解決のため採るべき手段を当事者の能力や意欲、市場や社会の環境に応じて案出し、プレゼンテーション(説明と説得)に成功しなければならない。

□ 提案実施のための外部スタッフを動員できるか

 解決手段を実施する際に必要となる外部の専門家を紹介し、実行チームの組織化ができなければならない。

□ 提案実施の際に生じる障害に対応できるか

 実施時には、外部環境の不測の変化や、予想以上に強力な反対派の抵抗がある場合がある。このような状況に対する的確な善後策が打てる冷静さと柔軟性がなければならない。

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目  次

第6章
コンサルティングに必要な知識と能力